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夜になって風が止んだ。
みしみし気温が落ちていく。
梅の根もとの落葉の中で、フクジュソウが三つのつぼみを寄せ合っている。
一番大きなつぼみがつぶやいた。
「真冬から咲かなければならないこの性が、おれはうらめしい。せめてもう少し陽気が暖かくなってからだったらなあ――」
「ほらほら、またはじまったぞ」
二番目のつぼみがあきれたようにため息をつく。
頭にかかる落葉を外しながら、三番目の小さなつぼみが、りんとして言う。
「春の訪れを告げるわたしたちがいなかったら、タンポポさんやレンゲさんたちはいつ咲いていいのか、順番の見当がつかないわよ。本当は恐ろしい毒草のわたしたちを、福を寿ぐ草とまで昔の人が名づけてくれたことを忘れてしまったの?」
兄は傷ついている。
近くのヒイラギが棘のある葉を、夜ごと兄の頭に振り落としつづけるのだ。
相手にされない彼は、月に向かって話しかけた。
「誰がおれを生んだのかい、そもそもなんでフクジュソウなのかい…」
突如、赤松林の梢がゴオーッと鳴り、彼のくりごとをかき消した。
八ヶ岳颪の始まりだ。
月が西方へ吹き飛ばされるころ、甲斐駒ヶ岳がばら色に染まった。
地中でもぐらが、まあるい体をいっそう固くして、寝言を言った。
「モルゲン・ロート……」
目の無いもぐらは、心の目で真実を感知するのだ。
三つのつぼみはおし黙ったまま、東に傾き、頭をもたげた。
そして、光の矢に射抜かれると、金の盃の花びらを、おごそかに開きはじめた。
*1――冬期、八ヶ岳から南の甲府盆地に吹きおろす強風。名物のひとつである。
*2――(ドイツ語)朝のばら色、すなわち朝焼け。
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